前回は退職給付債務の考え方・計算方法を解説しました。
今回はこの退職給付債務を変動させる要因である「退職給付費用」を解説します。
退職給付費用は退職給付会計でも最も重要な計算です。
また、今回は「退職給付会計」でも重要な「未認識」の解説をします。
前回をまだ読んでいない方はぜひ前回をよんでから今回を読んでください。

https://bkforworkers.com/3820/
退職給付費用の計算方法

退職給付費用としては「勤務費用」と「利息費用」の2種類があります。
勤務費用とは?
勤務費用とは一期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいい、割引計算によります。
つまり当期の退職給付の増加額のうち利息相当額を除いた額をいいます。
利息費用とは?
利息費用とは割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について期末までに発生した利息額をいいます。
退職給付債務と退職給付費用の関係性
期首退職給付債務額+勤務費用+利息費用※=期末退職給付債務額
※利息費用=期首退職給付債務×割引率
①勤務費用の計算
勤務費用は1年間の退職給付の増加額なので以下のように計算できます。
退職給付見込額1,000,000×÷(退職勤務年数20年)=50,000
50,000÷1.05=47,619.04…

勤務費用は×0年度から✕1年度の間の1年間かけて発生します。
1年間かけて発生した費用を残存勤務期間で割り引く必要があります。

どうゆうこと?

ようは1年後(退職見込時点)に50,000円になってほしいのです。
そのために割り引いています。
②利息費用
×0年度期末退職給付債務816,327※×割引率5%=40,816.35
※求め方は前回を参照してください

https://bkforworkers.com/3820/

期首の「退職給付債務」の額に利息が発生したと考えるんだね。

勤務費用は1年間に発生した「退職給付債務」の割引計算をしました。
利息費用は今まで計上した「退職給付債務」全体に利息が発生したと考えます
③退職給付費用
47,619.04…+40,816.35=88,435.39…⇒88,435

上の図を見ていただければわかりますが、
×0年度末退職給付債務816,327+退職給付費用88,435=×1年度末退職給付債務904,762になります。

前回の退職給付債務の額とリンクしているね。
退職給付費用の仕訳の方法
退職一時金についての仕訳の切り方は以下のようになります。
①利息費用・勤務費用発生時

②退職金の支払時


仕訳の考え方はとにかく「退職給付引当金」を増減させることです。
期待運用収益

期待運用収益は年金資産について合理的に予測される利息をいいます。
年金資産とは?
年金資産とは退職給付に充てるために企業が企業外部に積み立てている資産をいいます。
期待運用益の計算方法
期待運用収益=期首の年金資産×期待運用収益率
過去勤務債務

過去勤務債務とは、退職給与水準の改定等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少させる額をいいます。
過去勤務債務の処理方法
①発生時点
過去勤務債務が発生した場合には一時的な費用とはせず、一定期間にわたって費用処理します。

どうゆうこと?

下の解説を読んでいただければわかりますが、要は減価償却の考え方と同じですね
②過去勤務債務の償却
過去勤務債は発生年度より平均残存勤務期間以内に、原則として定額法で償却します。
仕訳例

※仕訳例は退職給付債務の増加を前提としています。
③未認識の過去勤務債務
未認識の過去勤務とは?
過去勤務債務のうち退職給付引当金として計上していない過去勤務債務を「未認識過去勤務債務」といいます。

「未認識」って考え方がヤヤコシイね!
「退職給付引当金」は上でも解説したようにすべて「退職給付引当金」を増減させる仕訳を行います。
「退職給付引当金」をいまだ増減させない(費用化または収益化)していないものを「未認識」といいます。

このあたりが退職給付引当金のとっつきにくいところですね
未認識の過去勤務債務=退職給付債務-退職給付引当金
解答
(1)退職給付費用の計上

(2)退職金支払時

(3)過去勤務費用の費用処理

※過去勤務債務5,000÷平均残存期間10年=500@年
数理計算上の差異

退職給付債務や退職給付費用は予定昇給率、退職確率、死亡確率、などの数理計算上の改定において計算されます。
その結果、計算上の様々な差異が発生します。その差異を数理計算上の差異といいます。
数理計算上の差異
①期首時点と期末時点に把握した退職給付債務の差異
②数理計算上の過程そのものの変更により発生した差異
数理計算上の差異の処理方法
①発生時点
数理計算上の差異が発生した場合には一時的な費用とはせず、一定期間にわたって費用処理します。

過去勤務債務と同じだね。
②過去勤務債務の償却
数理計算上の差異は発生年度より平均残存勤務期間以内に、原則として定額法で償却します。
仕訳例

※仕訳例は退職給付債務の増加を前提としています。
③未認識の数理計算上の差異
数理計算上の差異のうち退職給付引当金として計上していない数理計算上の差異を「未認識数理計算上の差異」といいます。
会計基準変更時差異

会計基準変更時差異とは新たに「退職給付にかかる会計基準」を採用したことに生じる差異のことです。
会計基準変更時差異の処理方法
①発生時点
会計基準変更時差異が発生した場合には一時的な費用とはせず、一定期間にわたって費用処理します。
②過去勤務債務の償却
会計基準変更時差異は発生年度より原則15年以内に、原則として定額法で償却します。
(発生年度に一括処理もOK)
仕訳例

※仕訳例は退職給付債務の増加を前提としています。
③未認識の数理計算上の差異
会計基準変更時差異のうち退職給付引当金として計上していない会計基準変更時差異を「未認識会計基準変更時差異」といいます。

過去勤務債務、数理計算上の差異、会計基準変更時差異名前は違えど扱いはほとんどおなじです。
下でまとめておきました。参考にしてください
まとめ
過去勤務費用
退職給付費用=退職給付見込み額のうち当期発生額÷(1+割引率)^残存勤務期間
利息費用
利息費用=期首の退職給付債務×割引率
期待運用収益
期待運用収益=期首の年金資産×期待運用収益率

一度にイロイロなことが出てきて理解が追い付かないよ…

退職給付会計のつらいところはここでしか使わない内容が一気に出てくるところですね。
次回は実践的な問題の解き方(テクニック)の方法を紹介します。解き方を通じて理解していきましょう。
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