ここ2回続けて純資産会計について解説してきました。
https://bkforworkers.com/5748/
https://bkforworkers.com/5831/
今回は自己株式を伴う株式の募集と分配可能額を解説します。
今回の内容、特に分配可能額は理屈ではなく法律で決められているので、計算方法は暗記するしかありません。
計算フローについては解説しますので、これを押さえましょう。

法律で決まられているので、覚えてしまえば点数になる内容です。
自己株式を伴う株式の募集

株式を発行する場合、自社が保有する自己株式を交付することができます。
募集株式の発行は以下の通りの3パターンが存在します。
- 新株の発行のみ
- 新株+自己株式の発行
- 自己株式の発行のみ
①新株の発行のみ
この場合は2級の内容と変わらず、全額資本金または、1/2を資本金とすることができます。
②新株+自己株式の発行
新株の発行+自己株式の処分の処理が同時に発生することになります。
③自己株式の発行のみ
自己株式の発行のみなので、資本金は増加しないことになります。
解答
解説
ケース1:通常の株式発行
ケース2:自己株式の処分
ケース3: 新株+自己株式の発行

ケース3は仕訳を以下の2つに分けて以下の手順で考えると処理しやすいです。
手順2:残額で新株発行

この順番で処理しないと間違えますので気をつけましょう!
ケース3
①手順1:自己株式の発行
処分額:払込価額120円×250株=30,000
自己株式の簿価:110円×250株=27,500
資本剰余金:30,000-27,500=2,500(処分差益)
手順2:残額で新株発行
払込額:300株×120円=36,000
資本金等増加額:36,000-30,000=6,000
②手順1:自己株式の発行
処分額:払込価額120円×250株=30,000
自己株式の簿価:130円×250株=32,500
資本剰余金:30,000-32,500=2,500(処分差損)
チェックポイント
処分差損が発生した場合は新株の発生額で調整します。
手順2:残額で新株発行
払込額:300株×120円=36,000
資本金等増加額:36,000-30,000-2,500(処分差損)=3,500

ここはなぜ?となりますが会社法で決まられています。覚えるしかありません。
③手順1:自己株式の発行
処分額:払込価額120円×250株=30,000
自己株式の簿価:150円×250株=37,500
資本剰余金:30,000-32,500=7,500(処分差損)
手順2:残額で新株発行
払込額:300株×120円=36,000
資本金等増加額:36,000-30,000-7,500(処分差損)=△1,500 ⇒ 資本金等発行額ゼロ
自己株式の処分差額の処理方法をまとめると以下のようになります。
チェックポイント
とにかく「処分差損」を出したくない、と理解しましょう!

純資産は会計よりも会社法で決まられている場合が多いです。ですので、簿記でも数少ない暗記を必要とする部分です。
分配可能額の算定


申し訳ありませんがここは丸暗記してください。ここも会社法で決まられています。
理屈ではなく法律です。
分配可能額とは?
株式会社が株主に対して配当を行う場合の効力発生日における配当ができる上限の額をいいます。
効力発生日において分配可能額を超えてはいけません。
※ ただし純資産を300万円を下回る会社の場合は配当ができません。
分配可能額の考え方

「期中の剰余金の変動額」といっても期中の損益じゃないよ。
剰余金の分配可能額の計算の4ステップ
剰余金の分配可能額の計算の4ステップ
①最終事業年度末日の剰余金の計算
②効力発生日の剰余金の額の算定
③効力発生日の剰余金の額に対する調整額の算定
④分配可能額の算定
①最終事業年度末日の剰余金の計算
最終事業年度末日の剰余金の計算は以下の合計額になります
・最終事業年度末日のその他利益剰余金
チェックポイント
準備金は含まないことに注意しましょう!
②効力発生日の剰余金の額の算定
①で算定した額に、効力発生日までの間に生じた剰余金の額の変動額を加減します。
ただし、期間利益は加減しません。
- 主な増加要因
- ・自己株式処分差益
- ・資本金・準備金からの剰余金への組入れ額
- 主な減少要因
- ・自己株式処分差損
- ・剰余金から資本金・準備金への組入れ額
- ・自己株式の償却額
- ・剰余金の配当額
- ・剰余金を配当した場合の準備金への積立額
③効力発生日の剰余金の額に対する調整額の算定
効力発生日の剰余金の額から以下の項目を控除します。
・最終事業年度末日の翌日から効力発生日までに行われた自己株式の処分価額
・最終事業年度末日におけるのれん等調整額が資本金等を超えている場合における一定額(※1)
・最終事業年度末日におけるその他有価証券評価差額金(マイナス残高のみ)
・純資産が300万円を下回る場合の不足額
※1 最終事業年度末日におけるのれん等調整額が資本金等を超えている場合における一定額とは?
のれん等調整額が資本金等を超えている場合の控除額の計算フロー
(注)のれん等調整額:のれん÷2+繰延資産の額
資 本 金 等:資本金+準備金の額
※ のれん等調整額<資本金等の場合は調整額不要
④分配可能額の算定

これは覚えるしかないの?

そうですね。会社法で決められているので覚えるしかありません。複雑ですので、捨てるかどうかはお任せします。
ただ、法律で決められているので覚えてしまえばそのまま点数につながる内容です。
解答
分配可能額 31,000千円
解説
1,最終事業年度末日の剰余金
その他資本剰余金12,000+繰越利益剰余金42,000=54,000
2,効力発生日の剰余金
54,000(最終事業年度末日の剰余金と同額)
3,効力発生日の剰余金の額に対する調整額の算定
①自己株式の簿価:3,000+20,000=23,000
②最終事業年度末日のその他有価証券評価差額:0(残高がプラス)
③のれん等の調整額:繰延資産40,000<資本金60,000+資本準備金13,000+利益準備金5,000
∴調整なし
④純資産は300万円下回る調整額:0円(純資産は300万円を下回らない)
∴調整額:23,000
4,分配可能額の算定
54,000-23,000=31,000
分配可能額の計算のまとめ
①最終事業年度末日の剰余金の計算
②効力発生日の剰余金の計算
③ 調整額の算定(1~4の合計)
1, 最終事業年度末日 自己株式の簿価、 効力発生日までの自己株式の処分価額
2,最終事業年度末日のその他有価証券評価差額(マイナス残高のみ)
3,のれん等の調整額
4,純資産は300万円下回る調整額
④、②-③=分配可能額
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